お祭りのアイスコーヒー

いつものお店がお祭り会場になっていて、はっぴを着た見知らぬ方々に「お祭りなんです」と教えられた。店内の椅子の並びが少し変わっている。レジ前には、あれなんだろう、ヨーヨーすくいかな。よく見えないけど。いつも食べているスパゲティーはメニューになく、というかそもそもお店のメニューがなく、お祭り仕様になっていて、300円の焼きそばだったり焼き鳥だったりになっている。缶チューハイとか。綺麗でスタイリッシュな店内には少しトゥーマッチな気がしないでもないけど、別にそんなことはどうでもいいか。中学一年生の頃、僕はとある女の子に一目惚れをした。別の小学校から来た女の子だった。僕には幼稚園の頃からの幼馴染のはるかという女の子がいるんだけど、そいつが僕に「しんごー、めっちゃ可愛い奴と友達になったよ、こいつー」と廊下でいきなりなぜか僕に紹介してきた。僕はその瞬間に一目惚れしたのだ。こんなに可愛い子が、僕と同じ学年にいるなんてと。その子はゆずが好きで、僕もゆずが好きだった。その子に、僕はその年の夏、町のお祭りで告白をした。姉が持っていた何か中華っぽいデザインの赤いおしゃれなジャージを着て、僕なりにおしゃれをして。小さな橋のところで、お祭りの道から隠れて僕は告白した。僕はそれから彼女のことが7年間くらい好きだった。もう何年も、本当に何年も前のことなのに、何でこんなに覚えているのか自分でもわからないけど。そんなことがあったなあ。その子を紹介してくれた幼馴染のはるかとは、幼稚園から本当にいつも一緒にいた。小学校の時なんて毎日毎日、遊んだり、野球をしたり。日が暮れるまですぐ近くの駐車場で二人でキャッチボールをしたり。野球部でも何でもないはるかは、おかげでその辺の男なんかよりも野球が上手だった。僕が毎日のようにキャッチーボールに付き合わせていたから。僕は今になって思うけど、僕は恋をしながら、はるかのことを本当に大切に思っていた。もちろん僕は、中学一年生の頃に一目惚れをしてからずっとその子が好きだったし、はるかも恋をしていたけれど、でもなんていうか、はるかに喜んでもらいたかった自分がいたのも確かだ。僕は比呂で、はるかはひかりだった。大袈裟だけどそんな感じだった。はるかも、その子も、今とっても幸せみたいで嬉しい。ゲラゲラ笑っているあの二人の並びが、僕はずっと好きだった。高校生になって僕が携帯を持つようになってから、はるかの誕生日には毎年メールを送っていたけど、気づけば僕は送らなくなっていた。変わったのは僕の方だ。5月にはいつも思い出す、誕生日おめでとう。たまに、はるかに凄く会いたくなる。恋ではないけど、10分でいいからキャッチボールしてくれないかなって思うときがある。15年前のように、日が暮れてくれないかなと思うときがある。あの頃描いていた大人になっていないのは、僕だけかなんて野暮ったいこと考えたりもするよ。後悔はしていなし今は今でとても人間味ある日々を過ごしているけど、人間味ありすぎて、たまに帰りたくなるときがあるよ。会いたくなったりするよ。なあ、みんな、元気か。全然忙しくなんかないんだよ僕は。あの頃自転車漕ぎながら夜の住宅街大声でみんなで歌った歌、今でも全部ソラで歌えるよ。あれから何年目の夏だろう。あれからどれくらい経ったろう。アイスコーヒーなんてカッコつけた飲み物だよなって、ビールなんて逃げる奴の飲むものだよななんて笑って、バカみたいにリボンナポリンばっか飲んでたのに、気づいたらアイスコーヒーとビールばっか飲んでいる。明日は札幌moleでライブ。初めての街、初めての場所。27歳と5ヶ月、誰よりも冷たく、誰よりも大きな声で、最高の初めましてをできるように。

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