ベストナインブルース

彼らが5人で消えゆく前に、一度でいいから9人で戦いたかった。今までできなかった「9人で戦う」ということを、どうしてもしてみたかった。最終少女ひかさの最期の対バンは、僕らじゃなきゃいやだと思っていた。



「なあ、シンゴ。」


「豊平川」という歌をひかさがやってる時に、正和さんの声が聴こえた。僕はその時楽屋で下を向いていたけど、歌はちゃんと聴いていたし、確かにその声が聴こえた。でも、そのあとに言葉は続かなかった。あの人はいつもそうだ。少ない言葉で、僕を向こうから抱きしめる。

なるべく、思い返さないように、思い出さないように、思わないように。
なんて無理だった。でも、僕は少し強くなったと思う。


ひかさが、最後に僕らの曲をやってくれた。嬉しくて、面白くて、幸せだなあと思った。してやったりな顔で楽屋に戻ってくるひかさメンバーが滑稽で滑稽で仕方なかった。なぜなら、うちも彼らの曲を練習してきていたからだ。くっくっく。どんな顔するかな。楽しいな。トモヤさんの言葉を借りるなら「バンドっていいな」、僕も何度も思った。僕らはひかさの「ハローアゲイン」という曲をやった。せっかくだし、恥かいてもらおうかなと思って、途中でひかさ全員呼んだ。バンドっていいな。ライブっていいな。解散は嫌だけど、まあ仕方ないな。それよりもやっぱ、生きてるっていいな。


せめて昨日くらい、素直にステージから、愛してるって言いたかった。ディスに重ねたディスも、全部本当は、あなたたちが生きてるのが嬉しいからなのに、もっと素直に言えりゃよかったな。ま、いいか。




みんなで打ち上げをした。
思い出話でもなんでもなく、みんな中学生のように、ただただ、そこにいた。
僕と正和さんは、なんかハイスタの話になって、二人でメイキングザロードの収録曲を一通りギター弾きながら歌ったりしてた。時刻はとっくにてっぺんを越えていた。あんなに夜遅くまで9人でいたのは、初めてだった。真夜中のベストナインの写真を撮りに、外に飛び出した。ゲラゲラ笑いながら。赤になる赤になるって。ラモネスちゃんが楽しそうに笑っていた。

時間が深くなってきて、「んじゃ、お先に」と、一人、また一人と帰って行った。
僕はなんだかうまく言えない気持ちになった。ていうか、普通にさみしかった。まあでも、死ぬわけじゃないし、対バンはもうないけど、一番大事なのはそこじゃないし。それに気づけたのも、みんなが帰り始めた時だった。










あなたたちが生きてる「今日」と、僕が生きてる「今日」が重なる日々があることを、本当に誇りに思います。残り一本、最後のワンマンライブ、どうぞご自由に勝手に突き抜けて余裕で越えて、そして華やかに散ってください。愛しています。なので、はやく解散しろ。












「シンゴ、俺もそろそろ帰るわ」と言うから、上まで送ったとき、外に白い軽ワゴン車が停まっていた。荷物を積んでいるのを僕はじっと見てた。運転席に乗り込む前にこっちに来て、右手を出してきて、「ありがとう、楽しかったよ」と言ってきた。「うん、僕も楽しかった。」と右手を出して、車が動き出すと同時に僕は中に戻った。





ねえ、正和さん。


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